スタンリー・キューブリック「時計じかけのオレンジ」意味は?奇妙な言葉とデザイン…ネタバレ感想

スタンリー・キューブリック「時計じかけのオレンジ」をやっと観ることができました。
映画に登場する変わった言葉や個人的に興味深かったポイントなどを書いています。
※ネタバレありますのでこれから観ようと思っている方はご注意ください。
2019年6月7日更新
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映画データ
【監督】スタンリー・キューブリック(1971年)
【原作】「A Clockwork Orange(邦題:時計じかけのオレンジ)」(アンソニー・バージェス)
【出演】マルコム・マクダウェル 他
【時間】136分
観たきっかけ
スタンリー・キューブリック監督の作品については、その奇抜さや映像的な特徴、未来的な視点がよく取り上げられていて、興味はあったもののあまり観たことがありませんでした。
つい最近になって、ようやく「2001年宇宙の旅」を観たのですが、原作者のアーサー・C・クラーク氏や宇宙開発技術者との綿密な打ち合わせのもとで撮影されたといい、今みても古臭さがありませんでした。
「時計じかけのオレンジ」も以前から気になっていたのですが、過激な暴力表現ありというしR15指定ともなっているので躊躇い続けていました。
たまたま契約しているdTVの見放題作品に入っていたので、良い機会と思って観てみることにしたのです。
あらすじ
舞台は未来のロンドン。
治安状態が悪化し退廃した町には、エネルギーを持て余す”ドルーグ”と呼ばれる少年不良チームが蔓延っていた。
夜な夜な徘徊しては性と暴力に明け暮れる15歳のアレックスは、4人組ドルーグのリーダーだった。
ある夜はずみで老女を殺害したアレックスは、仲間の反感を買って裏切られ、一人逮捕される。
14年にも及ぶ懲役が始まったが、それから2年後、新たに開発されたという人格改造療法が発表される。
アレックスは刑期短縮と引き換えに実験に志願した。
人格改造に成功し刑期よりも早く出所したアレックスを待っていたのは、犯罪者に対する恨みと憎しみに満ちた世界だった。
感想
※以降ネタバレあります。
画面のデザインや色が奇抜で面白く、目が離せませんでした。
蔓延する若者の暴力に対する権力の暴力が皮肉たっぷりに描かれていました。
暴力や性に対する衝動を、人格改造療法によって封じ込められたアレックスの無力さは、前半の激しい暴力描写を見ていても哀れになるほど。
刑務所内の神父はそのような療法に対し、自由意思を奪う暴力だと憤りますが、犯罪者の自由意思よりも治安維持が重要とされます。
刑務所内の暴力的な矯正よりも効果的とされる新療法でしたが、思いがけない社会的副作用が現れてしまいます。
主人公アレックスは暴力的で自分勝手、それでいて立ち回りがうまく両親や刑務所内の神父から可愛がられています。
奔放で自己中心的な性格ながら、愛嬌があって憎めない、魅力的な若者として描かれているんですよ。
こんなふうに感じるなんて、観ている自分の善性大丈夫かと不安になったりして。
新しく導入された矯正療法を受けた結果、アレックスは暴力を封じ込められ、暴力に対する抵抗すらできなくなります。
まるで丸裸にされて放り出されたような状態のアレックスに対し、外の社会は残酷でした。
犯罪を犯した人に対しては傷つけるようなことを言ってもよい、被害者は仕返しをしてもよい、といった暗黙の了解のうちに、アレックスは自殺に追い込まれます。
最終的には矯正効果は消えて、アレックスは元通り暴力的な若者に戻ります。
いろんな意味でアンハッピーなエンド。
映像だけ見ていると娯楽作品のようでもあるのですが、犯罪と矯正、自由主義と全体主義。社会の難しさを考えさせられる作品でもあります。
タイトルの意味
「時計じかけのオレンジ」というタイトルは、心理療法によって条件反射的に暴力に嫌悪感を示すようになったアレックスを指しています。
「オレンジ」は原作中の若者言葉で「人間」のこと。
つまり「時計じかけの人」という意味だったんですね。
見どころ
実際に映画を観て、個人的に注目したところをいくつかあげてみました。
特殊な言葉
アレックスたち若者は独特の言葉を使っています。
Wikipediaによると「ナッドサット語」と名付けられているそうで、古い言葉や語呂から作られた言葉のようです。
映画の中では特に言葉に対する解説はありませんが、繰り返し出てくる言葉は意味がとれるし、一部には字幕にルビがふってあるのでなんとなくわかります。
作品中によく登場した言葉をメモしてみました。
アルトラ:超暴力
イン・アウト:性行為
ガリバー:頭・性器
スパチカ:寝る、休む
デボチカ:女性
ドゥーク:礼儀?マナー?
ドゥービドゥーブ:わかった
トルチョック:殴る、暴力
ドルーグ:仲間、グループ
ホラーショー:素晴らしい、いい
マレンキー:ちょっと
ヤーブル:性器
ライティ・ライト:オッケー
映画の中では聞き取れませんでしたが、原作では「オレンジ」が「やつ、野郎」など人を指す言葉として使われているようです。
デザイン
スタンリー・キューブリックの映画は「2001年宇宙の旅」と「時計じかけのオレンジ」の2作しか観たことがないのですが、室内の内装や家具がアーティスティックで驚きます。
壁がメタリックな半球で覆われていたり、派手な色のタイルが敷き詰められていたり。
こういうのはサイケデリックっていうんですかね?
トレンディドラマに登場するデザイナーズマンションみたいです。
壁紙といえば「シェルブールの雨傘」に登場するフランスの家の内装も色が可愛かったですが、それよりはちょっと、普通じゃない感じ。
コロバ
アレックスたちがたまり場にしているミルク・バーです。 店内デザインがすごいの…。 暴力とか言ってるけど、ミルク飲んでかわいいじゃん!と思ったら、ドラッグ入りミルクでした。
表現
アレックスの妄想や犯罪シーンの撮り方が大袈裟というか、漫画的というか。
ドラッグやってるとこんな感じに見えるのかなと想像。
作品中で殺人が行われますが、悲劇となるべきそのシーンにアニメーションが挿入されていて、重い印象がなかったのです。
でも「殺人を犯した」っていう事実自体は重く扱われていて、なんだろうこの奇妙な感じ…という印象がありました。
主人公
主人公アレックスの本名はアレグザンダー・デ・ラージ、15歳。
自分は全能と思っているふしがあり、常にリーダーでいないと気がすまない勝気な性格です。
大人に対してはうまく立ち回り、ベートーベンが好きで芸術家気取りな部分も。
その気になれば、イケメンでおしゃれで優雅な物腰もできるので、ナンパで女の子をひっかけることもできます。
それなのにわざわざ家宅侵入して強姦とか、本当にエネルギー発散のために犯罪を犯しているろくでもない若者です。
要領がよく刑務所内では教誨師にうまく取り入っています。
そういうアレックスの態度からも、刑務所は矯正効果のない施設であると印象づけられます。
新しい矯正法「ルドヴィコ療法」
ブロドスキーという博士が開発した新療法は、外的刺激としての暴力行為と嫌悪感・無力感などの身体反応を関連づけるというもの。
目をつむれないよう瞼を固定した上、嘔吐感を催す薬を投与、そして強制的に暴力描写の映像を見続けさせられるという拷問のような「治療」が行われます。
人権的にかなり問題あると思われますが、ここでも「犯罪者・暴力に対して情け無用」みたいな「正義」が振りかざされていて怖い。
ベートーベン
アレックスはベートーベンの楽曲が大好きで、聴くたび暴力的な妄想を描き陶酔していました。
敬愛するベートーベンを「ルドヴィヒ」と呼び、特に交響曲第9番はお気に入りでした。
ところが心理療法の映像にBGMとしてその楽曲が使われていたため、アレックスはその楽曲を聴くたびに吐き気と自死願望に襲われることに。
楽曲への反応が、心理療法の効果を示していて、最終的に「完全に元通りになった」ことを暗示する要素となっています。
暴力表現について
過激な作品と聞いて観るのを躊躇している人のために、どんな描写がどのへんに入っているか大まかに解説します。
殴る蹴るの暴力シーンは全編通してちょいちょいあります。
ステッキを使って殴打、手足を使って殴る蹴るなど。
ハサミとかナイフを使ったグロシーンはありませんが、アレックスが治療として見せられる映像内で、顔面を何度も殴られ血みどろになる被害者が登場します。
ナイフを使うシーンが1箇所ありますが、皮一枚切る程度です。
複数人による強姦シーンがあるので、性暴力に免疫のない人は、冒頭から15分あたりまでのシーンと、中盤の治療中映像にご注意を。
まとめ
評判にたがわぬすごい作品でした。
結論。
若者の衝動さえも政治利用しようとする政治家が一番怖いっていうオチ。
胸糞悪くなるという人も多いと思いますが、暴力表現に抵抗の少ない人はぜひ観ていただきたい作品です。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!