漫勉、五十嵐大介「海獣の子供」映画化「ディザインズ」制作にボールペン必須。圧倒的画力で描く空気感

2019年6月6日

美術の世界から漫画家へ、圧倒的かつ緻密な描写力に言葉を失うほどの作品「ディザインズ」の制作現場に密着。
空気感を読者に伝えたいという五十嵐さんの繊細なペン先に迫ります。

番組内容

五十嵐さんの仕事場は自宅の一室です。
低めの机に座椅子、その周囲を書架が囲む、隠れ家というか巣穴のような作業場です。

五十嵐大介
出典:NHK

一度座ったら座りっぱなし、引きこもりっぱなしのような状態で書き続けるそうです。

1日の平均作業時間は約12時間!
すごい集中力ですね!

番組ナビゲーターの漫画家・浦沢直樹さんとの対談は、作業場ではなく、緑に囲まれた鎌倉のカフェで行われました。

五十嵐大介 浦沢直樹
出典:NHK

五十嵐大介さんは埼玉県生まれ。
幼いころから絵が得意で、多摩美術大学では油絵を専攻していました。
以前住んでいた浦和にある神社の風景が好きで、季節のうつろいごとに変わる風景の表情を見つめていたそうです。

24歳で美大を卒業後、旅に出て、ゆく先々の風景をスケッチされました。
絵を描くことは、その場所へ馴染むあいさつ代わりだったと言います。

描くことに集中する時間を経た後にこそ感じられる空気感を、人に共感してほしいという想いが、漫画の道へつながりました。

大好きだった神社の風景を舞台にしたデビュー作「お囃子が聞こえる日」は、発表後「はなしっぱなし」として連載されました。


五十嵐さんは、風景や自分が体感した感覚を、どうしたら伝えられるか?読んだ人が体験できないか?という想いで漫画を描かれています。
その気持ちを、とても大切にしていると語ります。

自分にしかできない独自の漫画世界を生み出そうとする挑戦を、五十嵐さんは、ほとんどアシスタントを使わないで行っています。

ペン入れはもちろん、細かい部分のベタ塗りやスクリーントーンを貼り、削る作業も自分で。

特に風景は五十嵐さん自身が大切にし力を入れているところで、仮にアシスタントに頼むとしても、風景は任せないというこだわりがあります。

描きたいものを描くだけでなく、多くの人に共感してもらいたいという思いからスタートした「ディザインズ」は「月刊アフタヌーン」にて2019年5月号まで連載されました。

ディザインズ
出典:アフタヌーン公式サイト

受賞歴

2004年
「魔女」で文化庁メディア芸術祭マンガ賞受賞
2009年
「海獣の子供」で日本漫画家協会賞・文化庁メディア芸術祭漫画賞

注目の技

ペンを軽く持ち出す質感

浦沢さんが指摘したのは、ペンの持ち方でした。
美大出身ですぐ漫画家になった五十嵐さんのペンの持ち方は、力を入れずデッサンをする時のような軽い持ち方です。

五十嵐大介
出典:NHK

線の強弱をつけないで、柔らかい線を重ねる方法で、画面の中で形を探りながら描くのだそうです。

つなげない線で表現

すべての線をつなげるのではなく、敢えてつながない部分を残すことで質感を出しているそうです。

そう言われてよく見ると、獣の背中やしっぽには線と線の間に空間があります。
わざと空間を残すことで柔らかさや空気感を描いているのです。

普通のボールペン

細かい描き込みは、丸ペンでなくボールペンで行っています。
ボールペンの特徴は、どの方向に動かしても線が引けること。

五十嵐大介
出典:NHK

丸ペンだと、上から下、右から左というように、複数の線を引く時に一方向ずつしか引けないんですね。
ボールペンなら上下にシャカシャカ、斜めにシャカシャカ、細かい描き込みも可能ですし、わざと線をかすれさせたり途切れさせるのも自在にできます。

1本、1箇所の線にこだわることで、筋肉、肌、牙それぞれの質感が伝わるコマになっていきます。

ある程度いいかげん

自然物を描く時にあまり真面目すぎて全て正確に描こうとするより、ある程度いい加減に、分からない物として描くとうまくいく、と語ります。

旅先の風景をたくさん描いてきた五十嵐さんの、肩の力の抜けた感じは、技術に裏打ちされた「良い加減」だと感じます。

トーンを削る

スクリーントーンは、影部分や衣服の柄などの表現に便利な画材ですが、五十嵐さんは視線を向けて欲しいところを際立たせるために使うといいます。
紹介されていた手法は、最初に画面全体にトーンを張り、雲や光の指しているところ、注目してほしいポイントをカッターで削っていくという作業です。
削りすぎるとトーンが剥がれたり、切れてしまったりするので、緻密で神経を使う作業です。

五十嵐大介
出典:NHK

女の子はかわいく

動物や風景の質感空気感にこだわって描いていると、女の子がかわいくなければ誰も読んでくれないという危機感が生まれる、という五十嵐さん。
特に女の子は可愛く描くように意識しているようです。

自然の風景や獣にリアリティがあり、かつ登場人物もそのように意識して描かれる五十嵐さんの漫画は、1コマ1コマがとても魅力的です。

五十嵐大介さんの代表作

海獣の子供(2006年~)

運動神経抜群の女子中学生・琉花は、海の生物と心を通わせる2人の少年・海と空と交流を深めます。
同じ頃、海に隕石が落下、世界中で「白斑」を持つ魚が消えるという不思議な現象が起こっていました。

2019年6月7日(金)映画「海獣の子供」が全国の劇場で公開。

魔女(2003年~)

魔女をテーマにした連作集で、4話の魔女奇譚から成る作品です。
欲望、満たされぬ想いが”力”となって現れる幻想と恐怖が描かれます。

ディザインズ(2015年~)

遺伝子操作によって生み出された半分動物、半分人間の生物が殺戮の現場へ解き放たれ、闘いを繰り広げるSF作品です。

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