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「逢対」ネタバレあらすじ

      2016/09/09

※直木賞受賞作「つまをめとらば」収録の、他の短編はこちらから

算盤

出典:写真AC

主人公の泰郎は、家柄としては一定のお役目につけるはずなのに父親の代から自宅で算学を教え細々と生活をしています。
泰郎が就けるはずのお役目は、希望者が千人を超えるところに200人の枠しかないという狭き門です。
お役目に就こうという固い意思もなく、武家をやめて町人として生きようという決意もなく、なんとなし日々を生きていた泰郎の変化は、小さなことから起こりました。

飯炊きに来ていたお婆さんがいよいよ年を取って、食事の味加減がおかしくなり始めたのです。
だからといって即辞めてもらって別の人に…とも言い出せず、泰郎は近所の煮売屋(お惣菜屋さん)で食事を調達するようになります。

その煮売屋を切り盛りするという女性は、自宅に届けることもできますと申し出てくれ、泰郎は好意に甘えて配達を頼みます。
ごく近所だったこともあり、店に行ったり自宅へ届けてもらったりを週2回ほど繰り返すうち、泰郎と里は親密になっていきます。

肌を合わせる関係になって、ますます里に惹かれ、世間的には遅いけれども…と夫婦になることを考える泰郎でしたが、里のほうは以前と変わらず淡々としています。

煮物

出典:写真素材足成

泰郎のほうがたまらず「この先どうするつもりなのか」と里に問いかけると、里は「どうもしない」と答えます。
お役目に就いていないとはいえ武家の泰郎と自分は身分が違う、と心得ています。
しかも里は17歳の時から5年間、大きな店の主人の妾(愛人)として過ごしていたというのです。

女性が身を立てる手段として売春が普通にあった時代でしたが、里の場合は母親が里を端から妾として育てていました。
読み書き、踊り、三味線など稽古事を仕込み、高く売れる妾に仕立て、里にもまた娘を産んでそのようにしなさいと教え込んできたのです。
結婚など考えていない、子供ができたら別れるのだから、そんなことは考えなくていいのだと言う里に、複雑な思いを抱く泰郎。

武家と元妾という間柄では結婚にもかなり壁がありますし、それなら武家は辞めて町人になるから結婚しようとも言い出せず悶々とする日々でした。
この、武家として生きるかどうかというところも、泰郎がこれまでずっと悩んできたところで、ここいらでふんぎりをつけようと思い立ちます。

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友人の北島義人はその生活や習慣はきっちりと武家の型通りであるのに、お役目に恵まれない人でした。
仕事を求めて権力のある人物の家へ通う「逢対(あいたい)」を、もう12年も続けている辛抱強い男です。
泰郎は義人を武士の手本とし、自分も逢対をして仕事を求めてみようと思う、と相談します。
義人は、近頃人柄が良いと評判の若年寄・長坂秀俊という人物を訪ねることを勧めてきます。

仕事を求めて権力者のもとへ通う武士は、とてもぞんざいに扱われることが多かったようです。
雨ざらしで待たされたり、順番を無視されたりは当たり前。
しかし長坂のところではとても丁寧に扱ってもらえるというのです。
何年通っても仕事などもらえないところもある中で、長坂からは2年で2人仕事がもらえた、というのも噂になっていました。

泰郎と義人は早速次の逢対日に長坂の屋敷を訪れます。
次の1人になれるかもと淡い期待を寄せた若者が早朝から集まっていました。

刀

出典:写真AC

順番札を配られる、屋根つき風よけつきの待合所が用意されている、刀を預ける棚がきちんと作ってあるなど、対応は噂通りでした。
また、逢対できる人数が限られてはいるものの、その列に並べなかった人に対する対応も丁寧で、本人だけでなく応対に出る部下にまで教育が行き届く人物とはさぞ素晴らしい人であろうと泰郎は期待します。

逢対に行った翌日、泰郎は長坂から呼び出しを受けます。
出かけて長坂と相対し用向きを聞くと、仕事を紹介する代わりに泰郎の刀を譲ってほしいというのです。
逢対で直接人物を見て仕事を与えるかどうか吟味していると思っていた泰郎は、趣味の刀探しのために丁寧な応対をしていると聞いて、武家として生きることへの執着が一気に冷めました。
泰郎は、「刀は友人の北島義人のものだ」と嘘をつき、義人に職をゆずります。

泰郎は算学塾一本で生活していくことを決め、里に夫婦になってほしいと切り出します。
里は子供ができたら別れるつもりであることに変わりない様子ですが、泰郎は「里にちゃんと恋をさせてみせる」と心に決めたのでした。

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【感想】
身分とか体裁とか、現代でもそうですが、男性は女性よりもずいぶん自分で自分を窮屈にしているものだなと感じました。
武家社会であればなおのことだと思います。
去勢を張って生きなければならない武士に対し、妾として生きること、子供を妾にすることに何の抵抗もなく堂々と身を立てている里が広々とおおらかに見えます。

女性が一人で生計を立てることは大変だったろうと思うのですが、妾として稼ぎ、煮売屋をひらき、母を畳の上で看取ったことは、里の自信につながっていたでしょう。
泰郎は自分の頼りなさを自覚していて、里の見目や料理だけでなくその自信のある態度にも惚れてしまったように思います。
ガンバレ、泰郎(笑)

※直木賞受賞作「つまをめとらば」収録の、他の短編はこちらから

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

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