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「ひと夏」ネタバレあらすじ

      2016/09/09

※直木賞受賞作「つまをめとらば」収録の、他の短編はこちらから

茄子

出典:写真素材足成

高林啓吾は窮乏厳しい柳原藩の22歳になる青年で、仕事がなく兄夫婦の家に同居している身です。
日々することといえば、自宅の畑の茄子の世話と剣の道場へ通うことくらいでした。

ある日、兄が啓吾に御召出(おめしだし)が来たと報告します。
これで兄の家から出て独り立ちができるはずなのですが、柳原藩は貧しいため、兄弟はこの時期に啓吾を独立させるというのもおかしいなといぶかります。

啓吾の仕事先は藩から離れたところにある杉坂村という領地をおさめることでした。
杉坂村は、そこに行った者は2年ともたずに辞めてしまうと言われている土地でした。

しかし御役目とあらば断ることもできず、啓吾はとりあえず現地に向かいます。

前任の政次郎から事情を聞いてみれば、杉坂村は将軍の治める「御領地」の真ん中にぽつんとある柳原藩の領地で、そこだけが御領地ではなく貧乏藩の土地なのだと言われます。

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御領地とは将軍が直接治める領地であり、村人にも将軍様に直接お仕えする百姓=御領の百姓なのだ、という自負があるのでした。
しかも年貢も軽いのです。
杉坂村は周辺が全て御領地の中にあって、そこだけが貧乏藩に納められていることが気に入りません。
それで、藩からの役人が来ても完全に無視を決めこみ、役人が耐え切れなくなって逃げ出すように、あるいは問題を起こして領地の組み換えをする機会を作ろうとさえしているというのです。

なかなか人間心理をついたヤな集団です。

前任の政次郎は偏屈な男で、赴任当初は一人で過ごすなど苦にならぬと思っていたのですが、自らが話さないのと、話せないのとでは全く違うと言います。

政次郎は逃げ帰るのではなく、禁止されている賭場を開くことで村人と会話をする機会を得、どうにかやり過ごしてきたのでした。

書

出典:写真素材足成

今回は、当時であれば良家の子息しか通えない手習い所を藩の運営で開き、啓吾が無料で村の子供たちに手習いを教えることになっていました。
政次郎は去り際に、干鰯屋(肥料などを売る店)のタネという娘に気をつけるよう言います。
その気もないのに誘惑してくる、うっかり乗れば揉め事にするという面倒臭い女だからと。

何か問題を起こせば、あるいは村人からひどく疎まれるようなことがあれば、何をされるか分かったものではない状況です。

誰も来ないかもしれない、と危惧しながら開いた寺子屋に、ひとまず子供たちはやってきます。
子供たちにまで軽んじられる啓吾でしたが、啓吾は村全体の様子を広く見つめ、政次郎が作っていた畑を耕しながら、それなりに生活を始めます。

子供たちとはそれなりに馴染んだ頃、村で騒動が起こります。

竹刀

出典:写真素材足成

御領地の陣屋(役場のようなところ?)の役人が、百姓上がりの上役を斬って逃げ、その役人・岡崎が杉坂村の干鰯屋(肥料屋)に立てこもったというのです。

岡崎は有名な剣の流派の使い手だと言われますが、啓吾は捕えるより仕方ないだろう、と恐れる様子もなく店へ入っていきます。
しかも啓吾は「もし自分が殺されたら、嫌だろうけど自分の藩に知らせてくれ」と言いおいて行くのです。
人物の大きさを感じます。

相対してみて、啓吾は岡崎が小さな己のプライドのために人を斬ったのだと分かります。
田舎剣法とバカにされる啓吾でしたが、岡崎の剣を封じ、あっさりお縄に。

この一件で村人が啓吾を受け入れめでたしめでたし…とはならないのですが、わずかな変化を感じる啓吾でした。

【感想】
啓吾のキャラクターがいいです。
太平の世にありながら、プライドや上下関係でがんじがらめになっている武士。
その中にありながら、意地になったり焦ったりすることなく、剣の稽古や畑の手入れを淡々とできる男性です。
色も欲もないのかと思ったら、タネという娘に迫られれば据え膳は食うというところも(笑)

江戸という時代、村社会の窮屈さとおおらかさの両方を読み取ることができる作品ではないかと思います。

個人的には、岡崎と対峙し、受けに徹する剣で岡崎を組み伏せるシーンが爽快でした。

※直木賞受賞作「つまをめとらば」収録の、他の短編はこちらから

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最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

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