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「乳付」ネタバレあらすじ

      2016/09/09

※直木賞受賞作「つまをめとらば」収録の、他の短編はこちらから

婚礼

出典:写真素材足成

出世コースから外れた父をもつ娘・島崎民恵は、家柄の良い神尾信明との結婚が決まって、嬉しい反面、居心地の悪い思いを抱いていました。
武家社会は家の格というものが重視され、格の違う家同士の婚姻は少なかった時代です。

民恵と信明は漢詩の会を通じて知り合い、会の中では仲良く言葉を交わす間柄でした。
しかし結婚となると話は別、と、家格を気にして萎縮する民恵でしたが、信明はのびのびしており民恵が諸々を気にしないで過ごせるように気遣ってくれます。

和服女性

出典:写真AC

やがて民恵は男の子を出産しますが、出産直後に熱を出して意識も朦朧としたまま数日を過ごします。
ようやく意識を取り戻してみると、我が子新次郎は姑の腕の中、抱かせてはもらったものの、熱の毒が乳からうつるといけない、と授乳させてもらえません

民恵がふせっている間、新次郎に乳を与えてくれていたという女性の存在を知らされ、民恵の心はざわめきます。

五十歳を過ぎてなお美しい姑の隆子、新次郎に授乳してくれている瀬紀(せき)という女性、どちらも民恵の目には美しく眩しくうつり、また彼女たちが信明と共にいると、自分だけが場違いな気持ちになっていたたまれなくなります。

やっと床を上げて、我が子にようやく乳を含ませた民恵でしたが、初めての授乳でうまく乳が出ず、我が子にまでむずかられてしまいます。

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自分はここにいてはいけないのではないかとまで思い悩む民恵ですが、瀬紀と顔を合わせ語り合ううちに、そのわだかまりが解けていきます。

親類のうちでは2人の子を安産で産み、授乳も上手く、とても元気そうだった女性・小夜が、3人目の子を産んだ直後に亡くなったこと。
瀬紀も初産では乳が出ず、小夜に乳をもらったこと。
そして今は死んだ小夜の遺した子に乳を飲ませていること。

小夜は美しい女性ではありませんでしたが、瀬紀は初産の子に乳をもらったとき、小夜に嫉妬した、と打ち明けます。
それがもとで嫁ぎ先を出されたほどの激しい嫉妬だったのだと。
しかし、初めて我が子に乳をあげたとき、己の中のわだかまりがなくなり、広い心持ちになったと言うのでした。

民恵は最初、自分の嫉妬心を見透かされ、諌められているのかと思うのですが、新次郎が初めて自分の乳を飲んでくれたときに、瀬紀の言葉を理解します。

刺し身

出典:写真AC

そんな折、民恵の父である島崎彦四郎が神尾家にやってきます。
釣りが趣味で出世はとうに諦めてしまっている彦四郎は飄々として気楽そうなおっちゃんです。
しかし、御用であちこちに顔を出すので、結構事情通なのです。
釣りたての魚をさばきながら、傍らの民恵に、夫信明の仕事での苦労を漏らします。
信明は家で仕事の話はしませんが、民恵は父を通じて、信明が職場での心労を忘れ、つかの間ホッとする場・人を必要としていると知ります。

私はどうしたら良いのかと問う民恵に、そのままでいるように、と言う父。
一緒に漢詩に親しんだ、その民恵のままでいることこそが、信明にとって最も心休まることなのだと知り、座りの悪かった嫁ぎ先での居場所を定めたような民恵でした。

【感想】
この短編のタイトル「乳付」とは、生まれた子供に初めてお乳を飲ませる女性のことを指すそうです。つまり乳母ですね。

物語中の神尾家で姑・隆子は、初産の子には経産の慣れた乳母が乳をやり、子が授乳に慣れた頃に母に戻すのだと説明します。
その隆子自身が、乳が出なかったにも関わらず、現在嫁や遠戚の初産婦へ乳付の采配をしているというのです。
そこには小さな嫉妬や意地の悪い気持ちはありません。
嫁の民恵にも「乳が出ても出なくても、あなたはうちの嫁」という気持ちで接していることがわかるのです。

百日紅

出典:写真AC

民恵の子に授乳してくれていた瀬紀が語ります。

母もなくなるし、子も亡くなります。
乳の要るところに乳がなく、乳の要らぬところに乳がある。
わたくしたちは乳付で、その酷さに挑まねばなりません。

子が生まれなければ母乳は出ませんが、瀬紀のもとに乳飲み子はいませんでした。
瀬紀は、我が子を亡くしたばかりだったのです。

瀬紀は、女は狭いようでいて実は際限なく広い、と言います。
その乳房は自分だけのものでも、自分の子だけのものでもない、一人の女のものでなく一族の乳房なのだと言います。

人工ミルクが開発された現代日本では、乳母の存在はほとんどなくなっていますが、授乳を通じて自分の子とだけでなく、一族、ひいては全ての子とつながっていた、母の世界の広さを感じます。

※直木賞受賞作「つまをめとらば」収録の、他の短編はこちらから

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最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

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