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村上春樹の最新作「ラオスにいったい何があるというんですか?」ネタバレ

      2016/07/18


世の中の人は総じて以下の二種類に分けられる。
すなわち、村上春樹を読める人と読めない人だ。

これは村上春樹を「読める人」である職場の先輩が言った言葉。

実際のところ、私は村上春樹を「読めない人」だ。
食わず嫌いというわけじゃない。何度か挑戦してみたことはある。
だけど、なにしろ風景というか、見えるものの描写が
細かくてまどろっこしい。

つい「そんなにも丁寧に周りを眺めてないで、話を先に進めてよ」
と言いたくなる。
それで「村上春樹と私の時間間隔は全然違うのだ」と決めて、
それ以上先を読むのを諦めた。

「ラオスにいったい何があるというんですか?」

村上春樹の新作が出たと聞いても、
読む気はおろか、手に取る気もなかった。
だけど、少し前に「村上さんのところ」を書店で立ち読みして、
村上春樹という人には興味が湧いていたし、
今回の作品は小説じゃないらしい。
というわけで「ラオスにいったい何があるというんですか?」を読んでみた。

開いてみたら、これまで苦手だった描写のまどろっこしさが、
逆に味わい深く感じられた。

内容は、著者が取材旅行に訪れた、
あるいは仕事で行った街のことを書いたエッセイだ。
訪れた土地に住む人の暮らしや、そこでは日常的な、
だけど旅人にとっては興味深い風景が、
独特の描写で浮かび上がってくる。

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描かれる場所は、村上春樹がかつて暮らした
ボストン、ローマ、トスカナ、フィンランド、
そして取材や仕事で訪れたアイスランド、ラオス、九州(順不同)。

著者の行動は、どの街でもだいたい同じだ。
おいしい魚料理を食べて、ワイン(またはビール)を飲んで、猫と遊んで、
散歩して…。
それなのに何故か、その土地その土地の空気感、人々、匂いがページに現れてくる。
港に打ち捨てられた古い船、掘っ建て小屋みたいな教会、
壁の落書きでさえも、その土地の空気を吸い込んだ、その土地の一部になる。

ボストンではジョギングコースを走り、ボストンマラソンに出場し、
アイスランドではパフィンに心ときめかせながら、
静かに自分の視線を追って、その風景を丁寧に描写している。

タイトルは、村上春樹がラオスに行く際
中継地点のハノイで現地のベトナム人に尋ねられたという言葉。
「いい質問だけど答えられない。だってその”何か”を探しに行くんだから」
というのが、文中での著者の答えだった。

そのラオスの旅を描いた中に
「(日本で暮らしているとき)僕らはあまりきちんとものを見てはいなかったんだな」
という一文がある。
曰く、流れる景色のように次々と巡ってくるものをただ目で追っているだけで、
本当に自分が見たいものをじっくりと見てはいない、と。

自分が見たいものを意識し、自分の目で、自分の意思で見る。
時間の流れの違う旅先だからこそ、そんなふうにものを見る、
既成の情報でなく想像力を働かせて見ると、著者は言う。

本に描かれる空気や感覚や哲学は、その瞬間の村上春樹にとっての感覚だ。
現地の時間の流れの中で、意識してものごとを見ることが出来たなら
あるいは自分にも、著者の辿った旅を、また違った匂いを感じながら
辿ることが出来るのではないかと考えさせられる。

そのような示唆を与えつつも、村上春樹の文章は
お洒落で洗練されて都会的、その上感傷的。
それでいてその風景は読むものの好奇心を刺激する。

気さくな「村上さん」

文章を追いかけながら私は、好奇心を露わに落ち着きのない子供のように
次は何が見えるのかとそわそわしてしまう。

子供のようといえば、この人の人懐こさには脱帽する。
海外に作家の友達がいるし、中古LP屋やワイン醸造家や
レストランのオーナーシェフや…
いろんな国にいろんな友人がいて、文中にもたくさん登場する。

心なしか、登場する人たちは皆、
古めかしいものや伝統や目に見えない心の部分を大切にしている人たちで、
それは著者と通じるところなのかもしれない。

最初は眉間にシワを寄せて開いた本だったけど、
この本の中では村上春樹という人が
「僕はここが好きなんだよ」、「あそこに行くならあの店オススメだよ」
と無邪気に語りかけて来る。

読み進めるうちに、きっと村上春樹という人が、
「世界的に有名な大作家」から、
行きつけの居酒屋でよくオーナーと喋ってる気のいいおじさんくらいに身近になる。

ああ、私と同じ理由で「読めない人」は
ぜひエッセイを手に取ってみて下さい。
以前よりちょっと、村上春樹「よめそうな人」になるんじゃないかと思います。

最後まで読んでいただいてありがとうございます(^^)

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